拡散 誹謗中傷

スマイリーキクチの事例に見る~誹謗中傷が拡散する負のスパイラル

誹謗中傷 拡散

スマイリーキクチというタレントはご存知でしょうか。

彼は今から20年ほど前、タモリのボキャブラ天国という番組で大活躍したお笑い芸人です。番組の放送終了とともにその姿をあまり見かけなくなりましたが、思わぬ形でその名前を耳にした方も多いのではないでしょうか。

見かけなくなったその理由とはネットでの誹謗中傷なのです。

スマイリーキクチの事例から、ネット上の誹謗中傷の恐ろしさとその本質が見えてきますが、一体どんな本質があるのでしょうか。

スマイリーキクチの受けた誹謗中傷

スマイリーキクチが受けた誹謗中傷は、彼の出身地、足立区で1988年から1989年にかけて起きた「凶悪事件の加害者の一人である」とネット掲示板に書きこまれたことから始まります。

ちなみにこの事件はいわゆる「女子高生コンクリート詰め殺人事件」です。犯罪史上類を見ない凶悪性と暴力性、そして事件の詳細が書籍やネットを通じて広まったことによる被害者への同情、加害者が当時未成年で比較的軽い刑罰となったことなど、多くの人々の記憶に残る事件でした。

スマイリーキクチによれば、誹謗中傷は1999年に突然始まったと言います。2ちゃんねるへの書き込みがもとになって、彼が所属していた事務所の掲示板へも誹謗中傷の書き込みが相次ぎました。

犯人たちとの共通点は足立区出身で、世代が同じだということ。たったそれだけです。彼にとってはまさに寝耳に水で、書き込みが行われていた当初は他人事のようだったと回顧しています。

そうした”他人事”だった誹謗中傷も「事件をお笑いライブのネタにしていた」「スナックで事件のことを笑いながら話していた」といった尾ひれがついたデマが拡散し、自分だけでなく事務所や取引先の相手にまで迷惑をかけるようになったとき、彼の生活を脅かす恐怖へと変貌したのです。

その後、彼は警察に相談をします。しかし時代はまだ2000年代に入ったばかり。社会的にもこうしたネット上の悪意に対する認識が甘く、また法律的にも未整備の状態でした。当然警察も腰が重く、誹謗中傷となるような「文章を書きこまれた」、「ネット上で脅迫を受けた」というだけでは捜査対象にはならなかったのです。

こうして誹謗中傷の書き込みはほぼ「野放し状態」のまま月日は流れ、9年後。ようやく警察の捜査が開始、悪意のある書き込みを行った19人が特定、検挙されました。その19人はサラリーマンもいれば公務員もいる、妊婦も、派遣社員の女性もいる、ごくごく普通の人々だったと言います。

誹謗中傷の本当の恐ろしさ

この事例に照らし合わせると、ネット上の誹謗中傷には以下の4つの要素が浮かび上がってきます。

・拡散性
自分があずかり知らぬところであっという間に誹謗中傷が広がっていく

・継続性
沈静化することなくかなり長い間続く上、沈静化しても書き込みが残るため蒸し返される

・突発性
ある日突然発生することもある

・無責任性
発信する側に罪の意識がない上に、書き込みが放置される

ある日突然掲示板に書き込まれた誹謗中傷が、ものすごいスピードでどんどん拡散していき、数年、数十年にわたった消えることのない「デジタルタトゥ」と化していきます。

誹謗中傷がさらに恐ろしいのは、負の感情をエネルギー元にして拡散し、らせん状に続いていく点にあります。誹謗中傷は負のスパイラルを自然に生み出すスイッチであるといっても過言ではありません。しかもこのスパイラルは時間をかけてより太く、力強いものに変わっていきます。

スマイリーキクチのように、自分は関与していない、無関係だ、という至極真っ当な反論すら、新しい誹謗中傷のエネルギー源として人々に共有されてしまい、どこまでも誹謗中傷のらせんが伸びていきます。終わりがないのです。

デマがデマを呼ぶ。それはデマを「本当のこと」「真実である」と思い込み、感情移入して自分の言葉で語ることで新しい「デマ」が書きこまれ、拡散されていきます。

それを読んだ人がまた新たなデマを生み出していくというこの独特な構造は、まさに『負のらせん階段』です。自分の書き込みは放置されたままいつまでも残るその無責任性と継続性も、ネット上の誹謗中傷の恐ろしさです。

スマイリーキクチの事例から学ぶべきもの

スマイリーキクチの事例から学ぶべきは、ネット上の誹謗中傷の特質です。
その特質とは3つあります。

1.誹謗中傷は無知から生じる
2.誹謗中傷することに罪の意識はない
3.誹謗中傷は自己正当化の道具になる

忘れてはならない3つの特質

「デマ」に対してどんなことを書いてもそれは「デマ」です。そこに多くの人が気付いていません。しかも「デマ」を疑ってかかり、ロジカルに考え、それが真実か否かを吟味するリテラシーに欠ける人が多いとスマイリーキクチは言います。

つまり誹謗中傷は無知からスタートするのです。

また悪意のある書き込みによって検挙された大半の人々の言い分が「正義感からやった」といいます。ただ一方で、生活している上でのストレスや怒り、不安がこうした書き込みに繋がったと、自己正当化する人もいたとのこと。

検挙されてから、実はネットに騙されただけで、元の書き込みをした奴が悪い、私も被害者である、と主張する人も見られたように、自分が誹謗中傷したことへの罪の意識は希薄です。

誹謗中傷は本来「悪口を言う」という意味ですが、ネット上ではこの「悪口」に対する線引きがあいまいになりがちです。というのも自分を含めた様々な意見があり、しかもそれが明確な根拠なしに語られることがほとんどだからです。

「悪口は言ってはいけない」これはほとんどの人が成長していく中で教えられてきている社会的な規範です。ところがネット上ではこの「悪口」が何をもってそれとするかが非常にあいまいになります。

まとめ

「悪口を書き込んではいけない」。スマイリーキクチは自身が聴きに行った「ネット炎上防止の講演会」で檀上の講師がこのように教えることを良く耳にするそうです。悪口を言うな、と言うのは簡単ですが、そもそも何が悪口で、あることないこといろいろ書きこむことが悪い事と分かっていない人々にこう諭すのは無理があります。

それがネット上で起きる誹謗中傷の本質です。であればこそ、誹謗中傷の加害者にならないようにするためには、怒るな、とは言いません。自分にとって怒りを覚えるニュースや書き込みを見ても、なにも書かないこと、自分から情報発信しないことが重要です。

またスマイリーキクチのように被害者となった場合、無視するのも危険ですし、真っ向からケンカ腰で否定するのも危険です。それが事実無根の情報であることをロジカルに否定すべきです。そうすればさらなる炎上の火種をくべることにはならないはずですから。